ドイル

世界怪談名作集 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃  ドイル Arthur Conan Doyle—— 岡本綺堂訳

一 九月十一日、北緯八十一度四十分、東経二度。依然、われわれは壮大な氷原の真っただ中に停船す。われわれの北方に拡がっている一氷原に、われわれは氷錨《アイス・アンカー》をおろしているのであるが、この氷原たるや、実にわが英国の一郡にも相当するほ...
ドイル

自転車嬢の危難  コナン・ドイル ——三上於莵吉訳

一八九四年から一九〇一年までの八年間は、シャーロック・ホームズは、とても多忙な身であった。  この八年間に、公の事件で重大なものは、一つとしてホームズのところに、持って来られなかったものはなかったし、またその外《ほか》に私的の事件で扱ったも...
ドイル

空家の冒険  コナン・ドイル —–三上於莵吉訳

一八九四年の春、――ロナルド・アデイア氏が全く不可解な、奇怪極まる事情の下に惨殺されたのは、当時はなはだ有名な事件で、ロンドン市民は一斉に好奇の目を睜《みは》り、殊に社交界の驚愕は大変なものであった。  警察側の探査に得られた、犯罪の詳細に...
ドイル

株式仲買店々員 コナンドイル Arthur Conan Doyle ——-三上於莵吉訳

結婚してからほどなく、私はパッディングトン区にお得意づきの医院を買った。私はその医院を老ハルクハー氏から買ったのであるが、老ハルクハー氏は一時はかなり手広く患者をとっていたのであった。しかし寄る年波とセント・ビタス・ダンスをする習慣があった...
ドイル

黄色な顔 THE YELLOW FACE コナンドイル Conan Doyle —–三上於莵吉訳

私は私の仲間の話をしようとすると、我知らず失敗談よりも成功談が多くなる。無論それらの話の中では、私は時によっては登場人物の一人になっているし、でなくても私はいつも深い関心を持たせられているのだが、――しかしこれは何も、私の仲間の名声のために...
ドイル

暗号舞踏人の謎 コナン・ドイル ——-三上於莵吉訳

ホームズは全く黙りこんだまま、その脊の高い痩せた身体を猫脊にして、何時間も化学実験室に向っていた。そこからは頻りに、いやな悪臭がただよって来る、――彼の頭は胸に深くちぢこめられて、その恰好は、鈍い灰色の羽毛の、黒い鳥冠《とさか》の奇妙な鳥の...
ドイル

グロリア・スコット号 コナンドイル ——-三上於莵吉訳

「僕、ここに書類を持ってるんだがね……」  と、私の友人、シャーロック・ホームズは云った。それは冬のある夜のことで、私たちは火をかこんで腰かけていた。 「ワトソン君、これは君も一読しといていいものだろうと思うんだよ。そら例の『グロリア・スコ...
ダンテ

神曲 LA DIVINA COMMEDIA 天堂 アリギエリ・ダンテ   Alighieri Dante— 山川丙三郎訳

第一曲萬物を動かす者の榮光|遍《あまね》く宇宙を貫くといへどもその輝《かゞやき》の及ぶこと一部に多く一部に少し 一―三 我は聖光《みひかり》を最《いと》多く受くる天にありて諸※[#二の字点、1-2-22]の物を見たりき、されど彼處《かしこ》...
ダンテ

神曲 LA DIVINA COMMEDIA 淨火   アリギエリ・ダンテ Alighieri Dante ——–   山川丙三郎訳

第一曲かのごとく酷《むご》き海をあとにし、優《まさ》れる水をはせわたらんとて、今わが才の小舟《をぶね》帆を揚ぐ 一―三 かくてわれ第二の王國をうたはむ、こは人の靈|淨《きよ》められて天に登るをうるところなり 四―六 あゝ聖なるムーゼよ、我は...
ダンテ

神曲 LA DIVINA COMMEDIA 地獄 アリギエリ・ダンテ    Alighieri Dante—– 山川丙三郎訳

第一曲われ正路を失ひ、人生の覊旅半にあたりてとある暗き林のなかにありき 一―三 あゝ荒れあらびわけ入りがたきこの林のさま語ることいかに難いかな、恐れを追思にあらたにし 四―六 いたみをあたふること死に劣らじ、されどわがかしこに享けし幸《さい...