チェーホフ

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てがみ アントン・チエーホフ Anton Chehov             —–鈴木三重吉訳

ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母《つか》さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコ...
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グーセフ ГУСЕВ チェーホフ Anton Chekhov—– 神西清訳

一 暗くなって来た、間もなく夜だ。  無期帰休兵のグーセフが、釣床《ハンモック》から半分起きあがって、小声で言う。 「ねえ、パーヴェル・イヴァーヌィチ。こんな事をスーチャン〔[#割り注]蘇城、ウラジオの東方約百キロにある炭坑地[#割り注終わ...
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かもめ   ЧАЙКА      ――喜劇 四幕――    アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

人物 アルカージナ(イリーナ・ニコラーエヴナ) とつぎ先の姓はトレープレヴァ、女優 トレープレフ(コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ) その息子、青年 ソーリン(ピョートル・ニコラーエヴィチ) アルカージナの兄 ニーナ(ミハイロヴナ・ザレーチ...
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カシタンカ  КАШТАНКА アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

一 行儀がわるい  まるできつねみたいな顔つきをした一匹の若い赤犬が――この犬は、足の短い猟犬と番犬とのあいのこだが――歩道の上を小走りに行ったりきたりしながら、不安そうにあたりをきょろきょろ見まわしていた。赤犬は、ときどき立ちどまっては、...
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かき   УСТРИЦЫ  アントン・チェーホフ      Anton Chekhov——- 神西清訳

小雨《こさめ》もよいの、ある秋の夕暮れだった。(ぼくは、あのときのことをはっきりおぼえている。)  ぼくは、父につれられて、人の行き来のはげしい、モスクワの、とある大通りにたたずんでいるうちに、なんだかだんだん妙に、気分がわるくなってきた。...
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イオーヌィチ JONYCH アントン・チェーホフ  Anton Chekhov ——–神西清訳

一 県庁のあるS市へやって来た人が、どうも退屈だとか単調だとかいってこぼすと、土地の人たちはまるで言いわけでもするような調子で、いやいやSはとてもいいところだ、Sには図書館から劇場、それからクラブまで一通りそろっているし、舞踏会もちょいちょ...