チェーホフ

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頸の上のアンナ      АННА НА ШЕЕ  アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

一 結婚式のあとではちょっとした茶菓さえ出なかった。新夫婦はシャンパンの盃を挙げて、それから直ぐ旅行服に着替えると停車場へ乗りつけた。陽気な結婚舞踏会や晩餐や、音楽や舞踊の代りに、彼等は五十里も隔たった修道院に参詣に出掛けるのであった。多く...
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六号室  アントン・チエホフ  Anton Chekhov—–瀬沼夏葉訳

(一) 町立病院《ちょうりつびょういん》の庭《にわ》の内《うち》、牛蒡《ごぼう》、蕁草《いらぐさ》、野麻《のあさ》などの簇《むらが》り茂《しげ》ってる辺《あたり》に、小《ささ》やかなる別室《べっしつ》の一|棟《むね》がある。屋根《やね》のブ...
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富籤     ВЫИГРЫШНЫЙ БИЛЕТ           アントン・チェーホフ       Anton Chekhov—– 神西清訳

イワン・ドミートリッチは中流階級の人間で、家族と一緒に年に千二百ルーブルの収入で暮らして、自分の運命に大いに満足を感じている男であった。或る晩のこと夜食のあとで、彼は長椅子《ながいす》の上で新聞を読みはじめた。 「私、今日はうっかりして新聞...
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天才  ТАЛАНТ     アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

避暑がてら、士官の後家さんの別荘に間借りをしている画家のエゴール・サヴィチは、いま自分の部屋の寝床に腰かけて、朝のメランコリイに耽っている最中である。庭はもうすっかり秋の眺めになっている。重苦しい、すこぶる拙く出来あがった層雲が、折角の大空...
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追放されて В ССЫЛКЕ アントン・チェーホフ      Anton Chekhov ——神西清訳

『先生』と綽名《あだな》のついた老人のセミョーンと、誰も名を知らない若い韃靼《ダッタン》人が、川岸の焚火の傍に坐っていた。残る三人の渡船夫は小屋のなかにいる。セミョーンは六十ほどの老爺で、痩せて歯はもう一本もないが、肩幅が広くて一見まだ矍鑠...
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大ヴォローヂャと小ヴォローヂャ ВОЛОДЯ БОЛЬШОЙ И ВОЛОДЯ МАЛЕНЬКИЙ    アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

「ね、馭者《ぎょしゃ》をやって見てもいいでしょう。私、馭者のとこへ行くわ!」とソフィヤ・リヴォヴナが声高《こわだか》に言った、「馭者さん、待ってよ。私、あんたの隣へ行くから。」  彼女が橇《そり》の中で起《た》ちあがると、夫のヴラヂーミル・...
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接吻   ПОЦЕЛУЙ アントン・チェーホフ      Anton Chekhov ——神西清訳

五月二十日の晩の八時のこと、N予備砲兵旅団の六個中隊が全部、野営地へ赴く途中で、メステーチキという村に一泊すべく停止した。砲のまわりで世話をやくのに忙がしい将校があるかと思えば、馬を飛ばして協会の柵のほとりの広場へ集合して、宿舎係の説明に聴...
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少年たち  МАЛЬЧИКИ アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

「ヴォローヂャが帰ってきた!」と誰かがおもてで叫んだ。 「ヴォローヂャちゃんがおつきになりましたよ!」と、食堂へかけこみながら、ナターリヤが叫んだ。「ああ、よかった!」  かわいいヴォローヂャの帰りを、今か今かと待っていたコロリョーフ家の人...
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小波瀾    ЖИТЕЙСКАЯ МЕЛОЧЬ         アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

ニコライ・イーリイッチ・ベリヤーエフというのはペテルブルグの家作《かさく》持ちで、競馬気違いで、そして栄養のいいてらてらした顔の、年の頃三十二ぐらいの若紳士であった。その彼がある晩のこと、オリガ・イワーノヴナ・イルニナ夫人に逢《あ》いに行っ...
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女房ども БАБЫ    チェーホフ Anton hekhov      —–神西清訳

ライブージ村の教会の真向うに、石を土台にした鉄板葺きの二階家がある。階下《した》には、ヂューヂャというのが通り名の、この家の主人フィリップ・イ※[#濁点付き片仮名ワ、1-7-82]ーノフ・カーシンが家族と一緒に住んでいる。二階は、夏はひどく...