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ボードレール

道化とヰナス ボードレール—— 富永太郎訳

何といふすばらしい日だ! 広大な公園は、愛神《アムール》の支配の下にある若者のやうに、太陽のぎら/\した眼《まなこ》の下に悶絶してゐる。  なべての物にあまねき此の有頂天を示す物音とてはない。河の水さへ眠つたやうである。ここには人の世の祭と...
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窓 ボードレール ——富永太郎訳

開いた窓の外からのぞき込む人は決して閉ざされた窓を眺める人ほど多くのものを見るものではない。蝋燭の火に照らされた窓にもまして深い、神秘的な、豊かな、陰鬱な、人の眼を奪ふやうなものがまたとあらうか。日光の下《もと》で人が見ることの出来るものは...
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酔へ! ボードレール —– 富永太郎訳

常に酔つてゐなければならない。ほかのことはどうでもよい――ただそれだけが問題なのだ。君の肩をくじき、君の体《からだ》を地に圧し曲げる恐ろしい「時」の重荷を感じたくないなら、君は絶え間なく酔つてゐなければならない。  しかし何で酔ふのだ? 酒...
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人工天国 J.G.F.に ボードレール—– 富永太郎訳

親しい女よ、  良識《ボンサンス》はわれらに告げて居る、地上のものは殆んど存在してはゐない、真の現実はたゞ夢の中にあるのみだと。自然の幸福を消化するためには、人工の幸福に於けるが如く、まづそれを嚥み下す勇気を持たなければならない。しかも、こ...
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射的場と墓地 ボードレール—— 富永太郎訳

墓地見晴し御|休処《やすみどころ》――「妙な看板だな」――と我が散策者は独言つた――「それにしても、あれを見ると実際喉が渇く様に出来てゐる! きつとこゝの主人は、オラースや、エピキユールの弟子の詩人たちぐらゐは解つてゐるにちがひない。事によ...
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港 ボードレール ——富永太郎訳

港は人生の闘に疲れた魂には快い住家《すみか》である。空の広大無辺、雲の動揺する建築、海の変りやすい色彩、燈台の煌き、これらのものは眼をば決して疲らせることなくして、楽しませるに恰好な不可思議な色眼鏡である。調子よく波に揺られてゐる索具《つな...
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午前一時に ボードレール—— 富永太郎訳

やつと独りになれた! 聞えるものはのろくさい疲れきつた辻馬車の響ばかり。暫くは静寂が得られるのだ、安息とは行かないまでも。暴虐をほしいまゝにした人間の顔もたうたう消え失せた、俺を悩ますものはもう俺自身ばかりだ。  やつと俺にも闇に浸つて疲を...
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芸術家の告白祈祷 ボードレール—— 富永太郎訳

秋の日の暮方は何と身に沁み入ることだ。苦しいまでに身に沁みる。何故と言つて、朧ろげではあるが強さには事欠かぬ、えも言はれぬ或る感覚があるものだから。また、「無窮」の刃くらゐ鋭い刃はないものだから。  空と海との無限の中にわが眼を溺らせる味ひ...
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計画 ボードレール ——富永太郎訳

彼は淋しい大きな公園を散歩しながら独言つた、「あの女が襞の一杯ついてゐる贅を尽した宮廷服を着て、美しい黄昏《たそがれ》の中を、広い芝生と泉水に向つた宮殿の大理石の石段を降りて来たらどんなに美しいだらう! なぜといつて、あの女は生れつき王女の...
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或るまどんなに 西班牙風の奉納物 ボードレール ——–富永太郎訳

わたくしのつかへまつる聖母さま、おんみの為に、わたくしの悲しみの奥深く、地下の神壇を建立《こんりふ》したい心願にござります。  わたくしの心のいと黒い片隅に、俗世の願ひ、また嘲けりの眼《め》の及ばぬあたり、おんみのおごそかな御像《みすがた》...