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チェーホフ

ねむい СПАТЬ ХОЧЕТСЯ アントン・チェーホフ Anton Chekhov     —–神西清訳

夜ふけ。十三になる子守り娘のワーリカが、赤んぼの臥《ね》ている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。――   ねんねんよう おころりよ、   唄をうたってあげましょう。…… 聖像の前に、みどり色の燈明がともって...
チェーホフ

てがみ アントン・チエーホフ Anton Chehov             —–鈴木三重吉訳

ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母《つか》さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコ...
チェーホフ

グーセフ ГУСЕВ チェーホフ Anton Chekhov—– 神西清訳

一 暗くなって来た、間もなく夜だ。  無期帰休兵のグーセフが、釣床《ハンモック》から半分起きあがって、小声で言う。 「ねえ、パーヴェル・イヴァーヌィチ。こんな事をスーチャン〔[#割り注]蘇城、ウラジオの東方約百キロにある炭坑地[#割り注終わ...
チェーホフ

かもめ   ЧАЙКА      ――喜劇 四幕――    アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

人物 アルカージナ(イリーナ・ニコラーエヴナ) とつぎ先の姓はトレープレヴァ、女優 トレープレフ(コンスタンチン・ガヴリーロヴィチ) その息子、青年 ソーリン(ピョートル・ニコラーエヴィチ) アルカージナの兄 ニーナ(ミハイロヴナ・ザレーチ...
チェーホフ

カシタンカ  КАШТАНКА アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

一 行儀がわるい  まるできつねみたいな顔つきをした一匹の若い赤犬が――この犬は、足の短い猟犬と番犬とのあいのこだが――歩道の上を小走りに行ったりきたりしながら、不安そうにあたりをきょろきょろ見まわしていた。赤犬は、ときどき立ちどまっては、...
チェーホフ

かき   УСТРИЦЫ  アントン・チェーホフ      Anton Chekhov——- 神西清訳

小雨《こさめ》もよいの、ある秋の夕暮れだった。(ぼくは、あのときのことをはっきりおぼえている。)  ぼくは、父につれられて、人の行き来のはげしい、モスクワの、とある大通りにたたずんでいるうちに、なんだかだんだん妙に、気分がわるくなってきた。...
チェーホフ

イオーヌィチ JONYCH アントン・チェーホフ  Anton Chekhov ——–神西清訳

一 県庁のあるS市へやって来た人が、どうも退屈だとか単調だとかいってこぼすと、土地の人たちはまるで言いわけでもするような調子で、いやいやSはとてもいいところだ、Sには図書館から劇場、それからクラブまで一通りそろっているし、舞踏会もちょいちょ...
ドイル

臨時急行列車の紛失     コナン・ドイル    新青年編輯局訳

はしがき 死刑を宣告されて今マルセイユ監獄に繋がれているヘルバルト・ドゥ・レルナークの告白は、私の信ずるところでは、どこの国の犯罪史を繙《ひもと》いてみても、絶対的に先例が無かっただろう‥‥‥と思われるような、あの異常な事件の上にようやく一...
ドイル

白銀の失踪 SILVER BLAZE コナンドイル Conan Doyle     —–三上於莵吉訳

「ワトソン君、僕は行《ゆ》かなきゃならないんだがね」  ある朝、一緒に食事をしている時にホームズがいった。 「行くってどこへ?」 「ダートムアだ――キングス・パイランドだ」  私は格別おどろきもしなかった。事実、私は、今全イングランドの噂の...
ドイル

入院患者 ナンドイル               —–三上於莵吉訳

私の友シャーロック・ホームズ独特な人格をよく出しているお話をしようと思って、たくさんの私の記憶をさがす時、私はいつもあらゆる方面から私の目的に添うような話をさがし出そうとして苦労するのである。なぜなら、ホームズがその心理解剖に全力を注いだと...