一 行儀がわるい
まるできつねみたいな顔つきをした一匹の若い赤犬が――この犬は、足の短い猟犬と番犬とのあいのこだが――歩道の上を小走りに行ったりきたりしながら、不安そうにあたりをきょろきょろ見まわしていた。赤犬は、ときどき立ちどまっては、泣きながら、こごえた足をかわるがわる持ちあげて、どうしてこう道にまようようなへまなことをしでかしたんだろうと一生けんめい考えた。
赤犬は、自分がどんなふうに、きょう一日を暮らし、どうして、しまいにこの見知らぬ歩道へまよいこんだのか、はっきりおぼえていた。
たしか、きょうが始まったのは、主人のさしもの師ルカー・アレクサンドルィチが、帽子をかぶり、赤い布切れに包んだ、何か木製品をこわきにかかえて、――
「カシタンカ、行こうぜ!」
と呼んだ、あのときである。
自分の名まえが呼ばれたのを聞くと、カシタンカは、今までかんなくずの上でねむっていたが、仕事台の下から、ごそごそはいだしてきて、さも気持よさそうにぐっと一つのびをしてから、主人についてかけだした。ルカー・アレクサンドルィチのお得意さきは、みんな、おそろしく遠いところにあったので、そのうちの一軒にたどりつくまでに、さしもの師はなんども居酒屋へよっては、ぐっと一ぱいひっかけて、元気をつけなければならなかった。カシタンカは、その道々、自分はずいぶん行儀がわるかったのを思いだした。散歩につれて行ってもらえるのがうれしかったので、ぴょんぴょんとびはねたり、鉄道馬車にほえついたり、よその家々の庭さきへはいりこんで、そこの犬を追いまわしたりしたのである。さしもの師は、しょっちゅうカシタンカのすがたを見うしなっては立ちどまり、ぷりぷりしながらどなりつけた。一度なんか、今にも食いつきそうなこわい顔つきで、カシタンカのきつねのような耳をひっつかみ、ぐいと引っぱって、とぎれとぎれにこんな悪たいをついたりした。
「くた……ばり……やが……れ、……この……コレラやろうめ!」
お得意さきをまわりおえると、ルカー・アレクサンドルィチは、ちょっと妹のうちへよって、そこでお酒を飲み、軽く腹ごしらえをした。妹のうちを出てから、彼は知りあいの製本屋へまわり、製本屋から居酒屋へ、居酒屋から名づけ親のところへというあんばいに、あっちこっちへ顔をだした。つまり、カシタンカがこの見知らぬ歩道へやってきたころには、もう夕がたになっていて、さしもの師はべろべろによっぱらっていた。かれは両手をふりまわして、大きな息をはきながらぶつぶつ言った。
「おれは、どうせ生まれぞこないさ! ああ、そうとも! 今だからこうしてのんきに町を歩いて、街燈なんか見ちゃいるけどな、おれが死んだら――地獄の火で焼かれるにちがいないさ。……」
そうかと思うと、急にやさしい調子に変わって、カシタンカを呼ぶと、こう言った。
「なあ、カシタンカ、おまえは、まあ、いいとこ虫けらだな。もっとも、人間とおまえのちがいは、まあ、さしもの師と大工のちがいみたいなもんだなあ。……」
ルカー・アレクサンドルィチが、カシタンカをあいてにこんなくだをまいていたとき、とつぜん音楽が鳴りひびいた。カシタンカがふり向くと、通りをまっすぐ自分のほうへ、一団の兵隊が進んでくるのが見えた。この音楽を聞くと、たまらないほど神経がいらいらしてきたので、カシタンカははねまわって、うううとうなった。ところが、おどろいたことに、主人のさしもの師は、きもをつぶして金切り声をあげたりほえたりするかわりに、顔じゅうにえみをたたえ、気をつけの姿勢をとり、五本の指をそろえて挙手の礼をした。主人が平気なのを見ると、カシタンカはいっそう大きな声でほえたてて、われを忘れていっさんに通りを横ぎり、向こうがわの歩道へとんで行った。
カシタンカが、ふと我にかえったときには、もう音楽はやみ、兵隊もいなくなっていた。そこで、赤犬はふたたび通りをわたって、さっき主人をおきざりにしてきたところへかけもどった。すると、――ああ、どうしたことだろう!――そこには、もう、さしもの師はいないのだ! カシタンカは、向こうへかけたり、かけもどったり、もう一度、通りを向こうへわたったりしたが、さしもの師のすがたは、まるで地の底へもぐりでもしたように見えなかった。足あとのにおいで主人を見つけようと思い、歩道の上をくんくんかぎまわってもみたけれど、その前にどこかのろくでなしが新しいゴムのオーバーシューズをはいて通ってしまったとみえて、今ではもう主人のかすかなにおいが、すっかりどぎついゴムのにおいにまざってしまって、何ひとつかぎわけることができなかった。
カシタンカが行ったりきたりするばかりで、まだ主人を見つけだせないでいるうちに、あたりは暗くなってきた。通りの両がわには街燈がともり、家々の窓にも、明かりがさし始めた。大きな綿雪がふってきて、石をしきつめた道路や、馬の背や、辻馬車の馭者《ぎょしゃ》の帽子を白くそめた。そして空気が暗くなればなるほど、いろいろなものが、いっそう浮きだして見えた。すぐそばをおおぜいの≪お得意さん≫たちが、ひっきりなしに行き来して、カシタンカを足でつきとばしたり、目の前に立ちふさがったりした。(≪お得意さん≫というのは、カシタンカが人間全体を、主人とお得意さんとにわけていたからである。主人とお得意さんとのあいだには、ひじょうな違いがあった――主人は、カシタンカをぶつ権利があるが、反対に、お得意さんに対しては、カシタンカのほうで、そのふくらはぎにかみつく権利があるのだ。)お得意さんたちは、どこへ行くのか、ひどくいそいでいて、カシタンカには目もくれなかった。
あたりがすっかく暗くなると、カシタンカは急にがっかりしておそろしくなった。赤犬は、とある家の車よせにかじりついて、はげしく鳴き始めた。一日じゅう、ルカー・アレクサンドルィチのおともをして歩きまわった旅行のおかげで、へとへとにつかれ、耳や足がすっかりこごえ、おまけに、ひどくおなかがすいていた。きょう一日のあいだに、ともかく口をもぐつかせたのはたった二度――それも、製本屋でのり[#「のり」に傍点]をすこしなめたのと、一軒の居酒屋で売り台のそばに腸づめの皮を見つけたのと――まさにこの二回だけだったのだ。もし、カシタンカが人間だったら、きっとこんなことを考えたにちがいない。――
「ほんとに、これじゃ生きていけない! ピストル自殺でもしなくちゃ!」
二 見知らぬ妙な男
けれども、カシタンカは何も考えないで、ただ鳴いてばかりいた。やわらかな綿雪が、赤犬の背中や頭にいっぱいふりつもった。カシタンカは、つかれきって重苦しいねむりにおちこんでいった。と、そのとき、とつぜん車よせの扉がぎいと開いて、そのひょうしにカシタンカの横っ腹にどすんとぶつかった。カシタンカは、思わずとびあがった。扉の中からは、≪お得意さん≫の部類にはいるひとりの男が出てきた。それを見ると、カシタンカは一声きゃんと叫んで、その男の足もとへかけよったので、男は思わずこの赤犬に目をとめた。男はかがみこんで、こうたずねた。
「おい、わん公、どこから来たんだ? 今、おれがふんづけたかい? おお、かわいそうに、かわいそうに……まあ、おこるな、おこるな……おれが悪かった。」
カシタンカは、まつ毛につもった雪を通して、この見知らぬ男を見あげた。前にいるのは小柄なふとっちょで、きれいにそりあげた、まるい顔をして、シルクハットをかぶり、ボタンをかけずに、外とうをはおっていた。
「何を、くんくん言ってるんだね?」と、見知らぬ男は、指でカシタンカの背中の雪をはらい落としながら、つづけた。「おまえの主人は、どこにいるんだい? ほほう、はぐれたんだな? かわいそうなわん公だ! ところで、どうしたもんだろう?」
カシタンカは、この見知らぬ男の声に、暖かい、親身な調子をかぎつけたので、男の手をぺろりとなめて、いっそうあわれっぽく鳴き始めた。
「おもしろい、いい犬だ!」と、見知らぬ男は言った。「まったく、きつねによく似ている! さて、今さら、どうしようもないから、どうだ、おれといっしょにこないかね! ひょっとすると、おまえも、何かの役にたつかもしれん。……さあ、フューイ!」
男はくちびるを鳴らして、カシタンカに手であいずした。つまり、≪行こうぜ!≫という意味なのだ。カシタンカは歩きだした。
半時間とたたないうちに、カシタンカは大きな明るい部屋の床にすわって頭をかしげながら、テーブルに向かって食事をしている見知らぬ男を、まじまじと見つめていた。男は食事をしながら、いくきれかの食べ物をカシタンカに投げてくれた。……まずはじめが、パンと、チーズの緑色になったかたい皮、それから、肉の切れはしや、肉まんじゅうの半かけや、めんどりの骨などをくれたが、カシタンカは、たださえひもじくてたまらないところだったので、味わうひまもないほど早く、みんなぺろりとたいらげてしまった。そして食べれば食べるほど、ますますおなかがすいてきた。
「まえの主人のところじゃ、ろくろくごちそうにもありつけなかったとみえるな!」と、見知らぬ男は、カシタンカがよくかみもしないで、がつがつのみこむのを見ながら、言った。「それにまあ、お前のやせっぽちなこと! 骨と皮ばかりじゃないか!……」
カシタンカはずいぶん食べたけれど、まだまだ食べたりなかった。ただ食べ物によったようになっただけだった。食事がすむと、カシタンカは部屋のまんなかに寝そべって足をのばし、からだじゅうにこころよいつかれをおぼえながら、しっぽをふり始めた。赤犬は、新しい主人がふかぶかとひじかけいすに腰をおろして葉巻をふかしているあいだに、しっぽをふりながら、この見知らぬ男のところと、さしもの師のところと、どっちがいいかという問題を考えてみた。見知らぬ男のところは、なんとなくみすぼらしくて、きれいではない。ひじかけいすと、ソファーと、ランプと、じゅうたんのほかには、なんにもないし、部屋じゅうがいやにがらんとしているような気がする。さしもの師のところだと、うちじゅうに、いろんなものがところ狭しとおかれている。テーブルもあれば、仕事台もある。かんなくずの山だの、かんなだの、のみだの、のこぎりだの、ひわを入れた鳥かごや、たらいまである。……見知らぬ男の家は、なんのにおいもしないが、さしもの師の住まいには、いつも霧がたちこめていて、にかわや、にすや、かんなくずのにおいが、景気よくただよっている。そのかわり、見知らぬ男のところには、一つとびきりいいところがある。――それは、食べ物をどっさりくれそうなことだ。そして彼のために、ぜひひとこと言っておかなければならないが、カシタンカがテーブルの前にすわってあまえるように男を見あげていたときも、一度もぶたなかったし、足をふみ鳴らしたり、≪あっちへ行け、このいやしんぼうめ!≫などとわめいたりもしなかった。
葉巻をすいおわると、新しい主人はちょっと部屋を出て行ったが、すぐに小さいふとんを両手にかかえてもどってきた。
「さあ、わん公、ここへおいで!」と、ソファーのそばへふとんをおきながら、言った。「この上に乗って、おやすみ!」
それから見知らぬ男は、ランプを消して出て行った。カシタンカはふとんの上に横たわって、目をつぶった。――通りのほうで犬のほえる声が聞こえた。カシタンカは、それに答えようとした。が、ふいにそのとき、言いようのない悲しみがこみあげてきた。カシタンカは、ルカー・アレクサンドルィチや、せがれのフェジューシカや、仕事台の下のいごこちのよい場所を思いだしたのだ。……長い冬の夜、さしもの師がかんなをかけたり、声をたてて新聞を読んだりしているとき、よくフェジューシカが、自分をあいてにふざけたことが思いだされた。……フェジューシカは、たびたびカシタンカのあと足をつかんで、仕事台の下から引きずりだし、目がまわって、体じゅうの関節がずきずきいたむほど、いろいろないたずらをした。あと足で歩かせたり、鐘のまねをさせる。つまり、しっぽを力いっぱい引っぱって、きゃんきゃん鳴かせてみたり、タバコをかがせたりする。……とりわけ、苦しくてやりきれなかったのは――フェジューシカが糸のはしに肉の切れっぱしを結びつけて、カシタンカに食べさせ、カシタンカが十分のみこんだのを見ると、大声で笑いながら、胃の中から引っぱりだすことだった。こんなことをありありと思いだせばだすほど、カシタンカはいよいよ大きな声で、悲しそうにくんくん鳴くのだった。
しかしまもなく、疲れと暖かさが、悲しみにうち勝った。……カシタンカは、うとうとし始めた。夢うつつの中を、なん匹もの犬が走って行く。その中に、きょう通りで見かけた、白そこひにかかり、鼻のまわりに毛のふさふさはえた、よぼよぼのむく犬もいた。フェジューシカがのみを片手に、このむく犬を追っかけて行く。と、こんどはとつぜん、フェジューシカがふさふさした毛におおわれて、楽しそうにほえながら、カシタンカのそばにあらわれた。カシタンカとフェジューシカは、なかよく鼻をかぎあってから、通りを走って行った。
三 新しい、とても愉快な知りあい
カシタンカが目をさましたときには、もうあたりはすっかり明るくなっていて、往来からは、昼間でなければ聞こえないようなざわめきが聞こえていた。部屋の中には、誰もいなかった。カシタンカは、ぐっと、一つのびをした。あくびをすると、おこったような、気むずかしい顔をして、部屋の中を歩いた。部屋のすみずみや家具をかいでまわり、玄関までのぞいてみたが、べつにこれといっておもしろいものは、一つも見あたらなかった。部屋には、玄関へ通じる扉のほかに、もう一つ扉があった。カシタンカは、ちょっと考えてから、その扉を二本の前足でおしあけ、つぎの部屋へはいった。その部屋の寝台の上には、ラシャの毛布にくるまった、ひとりの≪お得意さん≫がねむっていた。カシタンカは、ひと目で、そのお得意さんがゆうべの見知らぬ男だと気がついた。
「うううう……」――カシタンカはうなりかけたが、ゆうべの晩ごはんのことを思いだしたので、しっぽをふって、くんくんかぎ始めた。
見知らぬ男の服や靴のにおいをかいでみると、馬のにおいがぷんぷんしているのに気がついた。この寝室にも、やはり閉まった扉が一つあって、どこかへ行けるようになっていた。カシタンカはその扉を前足でひっかいたり、胸をもたせかけたりしておしあけた。すると、とたんに、妙な、なんだかふしぎなにおいが、ぷんと鼻をついた。カシタンカは、なんとなく、いやなあいてと出あいそうな気がしたので、うなったり、あたりを見まわしたりしながら、壁紙のよごれた、その小さな部屋に足をふみこんだが、そのとたんに、思わずぎょっとして、たじたじとなった。思いがけない、おそろしいものを見たのだ。首と頭を床すれすれにまげ、つばさをいっぱいにひろげて、しゅうしゅう言いながら、一羽のがちょうが、カシタンカめがけてまっしぐらにつき進んでくる。がちょうからすこしはなれた小さなふとんの上には、一匹の白ねこが横になっていた。ねこは、カシタンカを見ると、とび起きて、背中を弓なりにまげ、しっぽをぴんと立てて、毛をさか立て、負けずにふうふう言い始めた。赤犬は、すっかりどぎもをぬかれたが、それでも恐ろしさを見せまいと気ばって、大声でほえながら、ねこにとびかかった。……ねこはいっそう背中を弓なりにまげて、ふうふううなり始め、いきなり一方の前足をあげて、カシタンカの頭をなぐりつけた。カシタンカはとびのいて、ぺたんと腹ばいになり、ねこのほうに鼻面《はなづら》をつきだして、わんわんほえ始めた。すると、そのとき、がちょうがうしろからそっと近づいて、いやというほど、くちばしで背中をつついた。カシタンカははね起きて、がちょうめがけて、つっかかった。……
「こら、何を始めたんだ?」というぷりぷりした大声がして、葉巻をくわえた、寝巻すがたの、あの見知らぬ男が部屋へはいってきた。
「なんというざまだ! 静かにしろ!」
見知らぬ男は、ねこに近づくと、弓なりにまげた背中を軽くたたきながら言った。
「フョードル・チモフェーイチ! どうした? けんかを始めたんだな? しようのないおいぼれめ! さあ、寝た、寝た!」
それから、見知らぬ男は、がちょうのほうへ向きなおって、どなった。
「イワン・イワーヌィチ、静かにしろ!」
ねこは、おとなしく自分の小さなふとんの上に横になって、目をつぶった。その顔つきや、ひげのようすからみると、どうやら自分でも、ついかっとなって、けんかを始めたことを後悔しているらしかった。カシタンカは、腹だたしそうに鼻を鳴らした。一方、がちょうは首をのばして、何やら早口にもうれつな勢いでしゃべり始めた。その言葉ははっきり聞きとれたが、ちんぷんかんぷんでなんのことやらわからなかった。
「よし、よし!」と、主人はあくびをしながら言った。「おとなしく、なかよく暮らすんだぞ。」――それから、彼は、カシタンカをなでながら、つづけた。「なあ、おい、赤、こわがることはないさ。……みんな、いいやつばかりなんだから、おまえに悪さはしないよ。ときに、待てよ、おまえをどう呼ぶことにしようかな? 名なしのごんべえじゃこまるからな。」
見知らぬ男は、ちょっと考えてから、言った。
「そうだ。……≪おばさん≫にしよう。……いいかい? おばさん!」
そして見知らぬ男は、なんども≪おばさん≫という言葉をくりかえしてから、出て行った。カシタンカはすわって、あたりのようすをうかがい始めた。ねこは小さなふとんの上にじっとうずくまって、寝たふりをしていたが、がちょうは、あいかわらず首をつきだし、ひとところで足ぶみしながら、何やら早口に、熱心にしゃべりつづけていた。見たところ、これはたいそう利口ながちょうらしかった。がちょうは、ひとくだりの長い文句をいっきにしゃべりおわるたびに、いつも、びっくりしたようにあとずさりして、われながら自分の演説にはほれぼれするというふうをしてみせた。……カシタンカはしばらくがちょうの演説を聞いてから、≪うううう……≫と答えておいて、部屋のすみずみをかぎ始めた。あるすみに小さな桶《おけ》がおいてあって、中には水につけたえんどう豆と、ふやけたはだか麦の皮が見えた。カシタンカは、まずえんどう豆を一口毒味をしてみたが、義理にもおいしいとは言えなかったので、はだか麦の皮をつついてみて、食べ始めた。がちょうは、見知らぬ犬が、自分のえさをぱくぱく食べるのを見ても、腹をたてるどころか、反対に、いっそう熱心にしゃべり始め、我輩《わがはい》は、もう君をすっかり信用しているからね、とでも言うように、桶のところへちょこちょこ近づいて来て、いっしょにえんどう豆をいく粒かついばんだ。
四 ふしぎなけいこ
しばらくすると、ロシア語のП《ペー》という字によく似た、門のような形の妙なものを持って、またさっきの見知らぬ男がはいってきた。この木と木を簡単に打ちつけたПの字の横木には、鐘が一つぶらさげてあって、べつにピストルが一ちょう結びつけてあった。そして鐘の舌とピストルの引金《ひきがね》からは、細いひもがたれさがっていた。見知らぬ男は、このПの字を部屋のまんなかに立てて、長いあいだしきりに何か結んだりほどいたりしていたが、それがおわると、がちょうのほうを見て言った。
「さあ! イワン・イワーヌィチ。」
がちょうは、見知らぬ男に近づいて、つぎの命令を待ちかまえた。
「さて」と、見知らぬ男は言った。「きょうは、いちばんはじめから始めよう。まず、おじぎをして、それからごあいさつだ! そら!」
イワン・イワーヌィチは首を前へのばし、右足をちょっと引いて、四方へぺこぺこおじぎをし始めた。
「よし、えらいぞ!……こんどは、死ね!」
がちょうはあおむけに寝て、両足を上へ持ちあげた。見知らぬ男は、それからもいくつかのそういうやさしい芸当をやらせてから、ふいに頭をかかえると、さもおそろしくてたまらないような顔をして、こう叫んだ。
「番人! 火事だ! もえている!」
すると、イワン・イワーヌィチは、やにわにПの字にかけよって、ひもをくちばしにくわえ、がらんがらんと鐘を鳴らし始めた。
見知らぬ男は、すっかり満足した。彼は、がちょうの首をなでながら、言った。
「えらいぞ! イワン・イワーヌィチ! さあ、こんどは宝石屋になるんだ。金《きん》だのダイヤモンドを売っている。おまえが店へ来てみたら、泥棒がはいっている。そしたら、おまえはどうする?」
がちょうは、もう一本のひもをくちばしにくわえて引っぱった。同時に耳がさけるほど大きな音がとどろいた。この音は、ひどくカシタンカの気に入った。赤犬はピストルの音を聞くと、喜びいさんで、Пの字のまわりを走りながら、ほえ始めた。
「おばさん、出ちゃいけない!」と、見知らぬ男は叫んだ。「おだまり!」
イワン・イワーヌィチのけいこは、この射撃でおわったのではなかった。それからもまる一時間ほど、見知らぬ男は、がちょうにひもをつけて自分のまわりを追いまわしながら、むちでたたいた。そのたびにがちょうはさくをとびこえたり、輪をくぐりぬけたり、あと足で立つ、つまり、しっぽで立って両手をふったりしなければならなかった。カシタンカは、イワン・イワーヌィチをじっと見つめたまま、うれしくなって、うなったりかん高い叫びをあげて、なんどかがちょうのうしろから走りだしそうになった。がちょうも疲れ、自分も疲れてくると、見知らぬ男は、ひたいの汗をふきながら、叫んだ。
「マーリヤ、ハヴローニヤ・イワーノヴナをつれておいで!」
まもなく、ぶたの鳴き声が聞こえてきた。……カシタンカは、うなりながら、さも勇ましそうなふりをして、万一の用意に、そっと見知らぬ男のそばへよりそった。扉が開くと、ひとりのばあさんが部屋の中をのぞいて、なにやら二こと三ことしゃべってから、まっ黒な、ひどくみっともないぶたを部屋へ入れた。ぶたは、カシタンカのうなり声には目もくれず、鼻を天井に向けて、陽気にぶうぶう鳴き始めた。どうやら、このぶたは、主人や、ねこや、がちょうのイワン・イワーヌィチにあうのが、とてもうれしかったらしい。おまけに、ねこのそばへよって、鼻のさきで腹を軽くとんとつき、それから、がちょうとなにやら話し始めたときのその身ぶりといい、声といい、しっぽのふりぐあいといい、なかなか気さくな女と見える。カシタンカは、すぐにこういう手あいをあいてに、うなったり、ほえたりするのはむだなことだとさとった。
主人は、П《ペー》の字をかたづけてから、叫んだ。
「さあ、フョードル・チモフェーイチ!」
ねこは起きあがると、うるさそうにのびを一つして、やってやるよと言わないばかりに、しぶしぶぶたのところへ近づいた。
「さあ、エジプトのピラミッドから始めよう!」と、主人は声をかけた。
そして、彼はなにやら長いこと説明をしてから、≪一……二……三!≫と号令をかけた。イワン・イワーヌィチは、≪三≫をあいずに、一つばさっとはばたいて、ぶたの背中へとびあがった。……がちょうがつばさと首で体のつりあいをとって、いちめんにかたい毛のはえたぶたの背中にしっかりととまると、こんどは、フョードル・チモフェーイチが、みるからに人をばかにしきった、もともと、我輩は、自分のこんな芸なんか軽蔑しているんだ、こんなことには、一文《いちもん》の値打もみとめやしない、とでも言うようなようすで、のろのろと、さもめんどうくさそうにぶたの背中へはいあがり、それから、しぶしぶがちょうの背中へよじのぼって、あと足で立った。つまり、これが、あの見知らぬ男の言う、エジプトのピラミッドらしい。カシタンカは、有頂天になって、思わず、わんとほえたが、おりもおり、ねこのじいさんが、大きなあくびを一つやらかしたので、たちまち体のつりあいをうしなって、がちょうの背からころげ落ちた。そのはずみに、イワン・イワーヌィチもよろけてころげ落ちた。見知らぬ男は大声でどなって両手をふり、また何か説明し始めた。このピラミッドのけいこにまるまる一時間もかけると、疲れを知らない主人は、イワン・イワーヌィチに、ねこに乗って歩くことを教え始め、それから、ねこにタバコのすいかたを教えたり、そのほか、いろんな芸を教え始めた。
やっとのことで、このけいこがおしまいになると、見知らぬ男はひたいの汗をふいて出て行き、フョードル・チモフェーイチは不愉快そうにふうと息をはいて、ふとんの上に横になって目をとじた。イワン・イワーヌィチは、餌《えさ》の桶のほうへよちよち歩いて行き、ぶたは、ばあさんがつれて行った。このたくさんな新しいできごとのおかげで、その日は、カシタンカの知らないうちにすぎ去った。晩になると、カシタンカは小さなふとんといっしょに、この壁紙のよごれた小部屋へうつされて、そこで、フョードル・チモフェーイチや、がちょうともども、一夜を明かした。
五 天才! 天才!
一ヵ月たった。
カシタンカは、まい晩おいしいごちそうを食べることにも、≪おばさん≫と呼ばれることにもすっかりなれた。あの見知らぬ男にも、新しい友だちにもなれた。おだやかな暮しがつづいた。
くる日もくる日も、同じように始まった。いつもまっさきにイワン・イワーヌィチが目をさまし、すぐに、おばさんかねこのところへ近づいて、首をのばし、あいかわらずちんぷんかんぷんなことを、熱心に、一生けんめいしゃべり始めた。ときにはまた、頭を持ちあげて、長ったらしいひとりごとをしゃべりちらすこともあった。がちょうと知りあった最初の二、三日こそ、カシタンカは、こんなにいろんなことをしゃべるところをみると、さぞかし利口ながちょうにちがいないと思ったが、いくらもたたないうちに、がちょうに対していだいていた尊敬の気持をすっかりうしなってしまった。それからというもの、がちょうが長ったらしい演説をぶちながらそばへよって来ても、カシタンカは二度としっぽをふらないで、人のねむりの邪魔をするうるさいほらふきめと言わんばかりに、鼻のさきであしらい、えんりょなく≪うううう≫と返答してやることにした。……
がちょうとちがってフョードル・チモフェーイチは、ひとかどの紳士だった。彼は目をさましても、物音ひとつたてもしなければ、身動きもせず、おまけに目をあけさえしなかった。そればかりか、できることなら、そのままいつまでも、目をさまさないでいたかったらしい。というのは、ねこはこの世の暮しがあまり好きではないようにみえたからである。何ひとつ、彼は興味を持たないし、どんなことをするにも、のろのろとものぐさそうで、何もかも軽蔑しきって、自分にあてがわれたおいしい食べ物を食べるときでさえ、さもめんどうくさそうに、ふうふう言うのだった。
カシタンカは目をさますと、いつも家じゅうを歩きまわって、すみずみをかぎ始めた。うちじゅうを歩きまわるのをゆるされていたのは、カシタンカとねこだけだった。がちょうは、壁紙のよごれた部屋のしきいをまたぐ権利を持っていなかったし、ぶたのハヴローニヤ・イワーノヴナは、どこか庭さきの納屋のあたりに住んでいて、けいこのときにしか顔を見せなかった。主人は朝寝ぼうだったが、お茶を飲むと、すぐにご自慢の芸当にとりかかった。まい日、П《ペー》の字や、むちや、輪が部屋に運びこまれ、まい日、ほとんど一つのことがあきもせずにくりかえされた。けいこは、いつも三時間から四時間、ぶっとおしにつづけられた。それでときには、フョードル・チモフェーイチが疲れきって、酔ったようにふらふらになり、イワン・イワーヌィチがくちばしをあけたまま、苦しそうにあえぎ、主人は主人で、まっかになって、ひたいから流れる汗を、ふいてもふいてもふききれないでいることがあった。
けいことごちそうのおかげで、昼間はとてもおもしろかったが、晩は、たいくつでたまらなかった。たいてい晩になると、主人はがちょうとねこをつれてどこかへ出かけて行った。ひとりきりになると、おばさんは小さなふとんの上に横になって、悲しみにくれる。……言いようのない悲しさが、知らず知らずのうちに、カシタンカのそばへしのびよってきて、夕やみが部屋をうずめつくすように、しだいしだいにカシタンカの心をいっぱいにする。まずはじめに、ほえることも、食べることも、うちじゅうを走りまわることも、あらゆる心のはたらきが消えてしまう。するとこんどは、カシタンカの頭の中に、二つのぼんやりしたまぼろしがあらわれる。――それは、気持のいい、愛くるしい顔つきをしているが、まるで雲をつかむようで、犬だか人だか見わけがつかない。このまぼろしがあらわれると、おばさんはしっぽをふる。なんとなく、いつかどこかで出あったことがあって、自分が愛していたような気がする。……そして、カシタンカは、うとうとしながらも、いつもきまってそのまぼろしから、にかわ[#「にかわ」に傍点]や、かんなくずや、にす[#「にす」に傍点]のにおいがただようのを感じる。……
カシタンカが新しい暮しにすっかりなじみ、今までのやせた、骨ばかりの犬とは似ても似つかない、まるまるふとった、あまやかされた犬になり変わったある日のこと、主人はけいこのまえに、やさしくなでながらこんなことを言った。
「おばさんや、おまえもそろそろ仕事を始めるときがきたようだね。もう、それぐらいぶらぶらすればいいだろう。わしは、おまえを女優にしようと思うんだが。……どうだい、ひとつ、女優にならんかね?」
そして主人は、いろいろな芸をカシタンカに教え始めた。最初の課目では、まずあと足で立って歩くことをならった。これは、ひどくカシタンカの気に入った。第二の課目にはいると、あと足でとびあがって、先生が頭のずっと上に持っている砂糖を口で取らなければならなかった。それがすむと、おどったり、綱で引っぱられたままぐるぐる走りまわったり、音楽にあわせてほえたり、鐘を鳴らしたり、ピストルをうったりした。そして、一月もたつと、≪エジプトのピラミッド≫で、フョードル・チモフェーイチのかわりを上手につとめられるほどになった。カシタンカはいそいそとけいこにはげんだし、うまくやりとげるとうれしくてたまらなかった。綱で引っぱられたまま、舌をだらりとたらして走りまわることも、輪をくぐりぬけることも、年よりのフョードル・チモフェーイチの背中に乗って歩くことも、カシタンカにとっては生まれてはじめてあじわう楽しみだった。こういう芸当をうまくやってのけるたびに、カシタンカは、たかだかと勝ちほこったようにほえた。主人はびっくりして、有頂天になり、しきりに手をこすって叫んだ。
「天才だ! 天才だ! ほんとうの天才だ! 成功うたがいなしだ!」
おばさんはこの≪天才≫ということばを、あまりなんども聞かされたので、主人がこのことばを口にするたびにとびあがって、まるで、それが自分の名まえででもあるみたいに、きょろきょろあたりを見まわすのだった。
六 不安な一夜
おばさんは、――犬はやっぱり犬だから――こんなみじめな夢を見ていた。ほうきを持った門番が、うしろから追っかけてくる。おばさんは、おそろしさに目をさました。
部屋は、静かで、暗くて、ひどくむんむんしていた。のみがさした。これまでおばさんは、やみをおそれたことなんか一度だってなかったが、このときは、なんとなくうす気味がわるくて、やたらにほえたかった。となりの部屋で、主人が大きなため息をついた。しばらくすると、納屋の中でぶたが鳴いた。それっきり、あたりはまたしんと静まりかえった。食べ物のことを考えると、気がやすまってくるので、おばさんは、きょうフョードル・チモフェーイチのにわとりの足を失敬して、くもの巣とほこりのどっさりたまった客間の戸だなと壁のすきまへかくしたことを思いだした。あのにわとりの足がまだそのままあるかどうか、今行ってみることができたらなあ! きっと主人が見つけて食べてしまったにちがいあるまい。――しかし朝になるまでは、部屋から出てはならないきまりになっていた。そこでおばさんは、すこしでも早く寝つこうと思って目をつぶった。早く寝ればそれだけ早く朝になるということを経験から知っていたのだ。するとふいに、近くで妙な悲鳴が起こった。おばさんは思わず身ぶるいしてとび起きた。それは、イワン・イワーヌィチの悲鳴だった。が、ふだんの長ったらしい、言い聞かせるような調子ではなくて、どことなくあらあらしい、さすような不自然な叫び声で、門をあけるときの戸のきしむ音そっくりだった。やみのために何ひとつ見わけられず、何が何だかわからなかったので、おばさんは、よけいこわくなってきて、うなった。――
「うううう……」
上等な骨をしゃぶるほどのちょっとした時間がすぎた。――それっきり悲鳴は聞こえなかった。おばさんは、だんだんおちつきをとりもどしてきて、うとうとしだした。腰と腹のあたりに、去年の毛がもじゃもじゃはえた二匹の大きい黒犬の夢を見た。黒犬は、大きなたらい[#「たらい」に傍点]から、白い湯気とおいしそうなにおいの立ちのぼっているおあまりを、がつがつ食べていた。ときどき彼らは、おばさんのほうをふりかえって、歯をむいて、≪君にゃ、やらないよ!≫とうなった。すると、家の中から、外套を着たひとりの百姓がかけだしてきて、むちで黒犬を追いはらった。そのすきに、おばさんはたらいに近づいて食べ始めたが、百姓が門の向こうへ去るが早いか、二匹の黒犬がほえたてながら、カシタンカにとびかかった。――そのとき、ふいにまた、さすような悲鳴が起こった。
「ぐえっ! ぐえっ・ぐえっ!」――イワン・イワーヌィチが叫んだのだ。
おばさんは、目をさましてとび起きると、ふとんの上に乗ったままほえ始めた。おばさんには、イワン・イワーヌィチが叫んだのではなくて、誰かよその見知らぬ者が叫んだような気がしたのだ。すると、なぜかまた、納屋でぶたが鳴いた。
そのとき、スリッパの音がして、寝巻すがたの主人がろうそくを持って部屋へはいってきた。ちらちらまたたく光が、よごれた壁紙の上や天井をはねまわって、やみを追っぱらった。おばさんは、部屋の中によその見知らぬ者などだれもいないのを見とどけた。イワン・イワーヌィチは床にすわったまま、ねむらずにいた。彼はつばさをだらりとひろげてくちばしをあけ、見るからにぐったりとして、水をほしがっているようなようすだった。フョードル・チモフェーイチじいさんも、目をさましていた。たぶん彼も、さっきの悲鳴で起こされたのだろう。
「イワン・イワーヌィチ、どうしたんだね?」と、主人はがちょうにたずねた。「何を叫んでいるんだ? ぐあいでも悪いのかい?」
がちょうは、だまっていた。主人は、ちょっとがちょうの首にさわってみて、それから、背中をなでて言った。
「おかしなやつだなあ。自分も寝ないし、人も寝かせない。」
主人が出て行って、それといっしょにあかりが持ち去られると、ふたたび、やみがおしよせた。おばさんはこわかった。がちょうは悲鳴をあげなかったけれど、またもやよその見知らぬ者が、やみの中にじっと立っているような気がしてきた。なによりもいちばんおそろしかったのは、その見知らぬよそのやつが、影も形もなかったので、かみつこうにもかみつくことができなかったことだ。そしてなぜかおばさんは、きっと今夜のうちに、どうしようもない何か悪いことが持ちあがるにちがいないと思った。フョードル・チモフェーイチも、やっぱりおちつかないらしかった。彼がふとんの上でごそごそやったり、なまあくびをしたり、頭をふったりする音が聞こえた。
どこか通りのほうで門をたたく音がして、納屋でぶたが鳴いた。おばさんは、鼻を鳴らして前足をのばし、その上に頭をのせた。門をたたく音にも、なぜか、寝つかれないでいるぶたの鳴き声にも、やみの中にも、静けさの中にも、おばさんはイワン・イワーヌィチの悲鳴を聞いたときと同じもの悲しさ、おそろしさを感じた。何もかもが、ざわざわしておちつかなかった。なぜだろう? それにまた、あの目に見えないよその者は、いったいだれなのだろう?……と、そのとき、おばさんのすぐま近《ぢ》かで、ぼうっとした緑色の火花が二つ、一瞬ぱっともえあがった。それは、フョードル・チモフェーイチが知りあいになってからはじめて、おばさんのそばへよりそってきたのである。なんの用だろう? おばさんは、ねこの足をなめてから、よりそってきたわけはきかないで、そっといろんな声でうなり始めた。
「ぐえっ!」――ふいに、イワン・イワーヌィチが叫んだ。「ぐえっ・ぐえっ!」
するとまた扉があいて、ろうそくを持った主人がはいってきた。がちょうは、くちばしをあけ、つばさをひろげたまま、まえと同じ姿勢ですわっていた。目は、つぶったままだった。
「イワン・イワーヌィチ!」と、主人は呼んだ。
がちょうは身動きひとつしなかった。主人は、向かいあって床にすわり、だまったまましばらくがちょうを見て言った。
「イワン・イワーヌィチ! どうしたのさ? 死ぬのかい?……ああ、そうか、やっと思いだしたよ!」――主人は、こう叫んで自分の頭をつかんだ。「なるほど、そうだったなあ! きょう、馬にふんづけられたからなあ! ああ、ああ!」
おばさんは、主人が何を言っているのかわからなかったけれど、主人の顔つきから、彼が何かおそろしいことを待ち受けているのを知った。おばさんは暗い窓のほうへ鼻面をつきだしてほえ始めた。その窓から、れいの、よその見知らぬ者が、のぞいているような気がしたのだ。
「おばさん、こいつは死にかけてるんだぞ!」と、主人は言って、手を打ちあわせた。「そうだ、そうだ、死にかけているんだ! おまえたちのところへ、この部屋へ、≪死に神≫がやって来たんだ。ああ、どうすりゃいいんだ?」
青ざめておろおろした主人はため息をついて、頭をふりながら自分の寝室へもどった。おばさんはやみの中に残るのが気味わるかったので、主人について行った。主人は寝台に腰をおろして、なんどもくりかえしてこう言った。――
「ああ、どうすりゃいいんだ?」
おばさんは、主人の足もとを行ったり来たりして、どうしてこんなに気がめいるのか、なぜこんなにみんなが不安そうにしているのか、まるでわけがわからないけれど、なんとかしてそのわけを知ろうとして、主人のようすをいちいちじっと見守っていた。めったに自分のふとんをはなれないフョードル・チモフェーイチまでが、主人の寝室へやってきて、主人の足にからだをすりつけだした。ねこは、重苦しい考えを頭からふり落とそうとでもするように、頭をふっていぶかしそうに寝台の下をのぞきこんだ。
主人は小さな皿を取って、水さしから水をつぐと、またがちょうのところへとってかえした。
「さあ、お飲み、イワン・イワーヌィチ!」皿をがちょうの前におきながら、主人はやさしく言った。「さ、お飲み、いい子だから。」
けれども、イワン・イワーヌィチは身動きひとつしなければ、目をあけもしなかった。主人はがちょうの頭を皿のほうへまげて、くちばしを水につけてやったが、それでも飲まないで、ただつばさをいっそうひろげたばかり。――そして、そのまま頭を皿の中にがっくりと落としてしまった。
「だめだ、もうどうしようもない!」――主人は、ほっとため息をついた。「万事休すだ。イワン・イワーヌィチは死んでしまった!」
言いおわると、主人の両ほおを、雨ふりの日に窓をつたわって落ちるような、きらきら光るしずくが流れ落ちた。わけもわからないまま、おばさんとフョードル・チモフェーイチは、主人によりそって、おそるおそるがちょうを見つめていた。
「かわいそうな、イワン・イワーヌィチ!」――悲しそうにため息をつきながら、主人が言った。
「春になったら、別荘へつれて行って、緑の草原を、おまえと散歩しようと楽しみにしていたのに! かわいいおまえ、なかよしだったおまえは、もういないのだ! ああ、おまえと別れて、これから、おれはどうしてやっていけよう?」
おばさんは、いつか、これと同じことが、自分の身のうえにも起こるような気がした。つまり、いつか自分もまた、なぜだか知らないけれど、こんなふうに目をつぶって、足をのばして、口をあけるだろう、そして、みんながおそるおそる自分のすがたに見入るだろう。……どうやら、フョードル・チモフェーイチの頭にも、同じような考えが浮かんでいたらしい。この年とったねこが、こんなに陰気くさい、暗い顔をしていたことは、今まで一度もなかった。
夜が明け始めた。あれほどおばさんをおどかした、目に見えない見知らぬ者は、もう部屋の中にはいなかった。すっかり明るくなると、門番がやってきて、がちょうの足をつかんで、どこかへ持って行った。しばらくすると、ばあさんがあらわれて、餌桶《えおけ》を運びだした。
おばさんは、客間へ行って、戸だなのうしろをのぞいてみた。にわとりの足は主人が食べなかったとみえて、あのままほこりとくもの巣にまみれてころがっていた。しかしおばさんは、気がめいるやらもの悲しいやらで、むしょうに泣きたかった。カシタンカは、にわとりの足のにおいをかごうとしないで、ソファーの下にもぐりこんで、そこへ腰をおろすと、そっとか細い声で鳴きだした。――「くん・くん・くん……」
七 さんざんな初舞台
ある日の夕がた、壁紙のよごれた部屋へ主人がはいって来て、もみ手をしながら、言った。
「さあ……」
彼は、あとをつづけようとしたが、言わないで出て行った。けいこのあいだに主人の顔つきや声の調子をすっかりのみこんでいたおばさんは、主人が興奮して、やきもきして、なにかじりじりしているらしい、と気づいた。しばらくすると、主人がもどってきて、言った。
「きょうは、おばさんとフョードル・チモフェーイチをつれて行く。エジプトのピラミッドでは、おばさん、きょうは、おまえが死んだイワン・イワーヌィチの代役をつとめるんだ。ちぇっ、どうなることやら! 準備ひとつしちゃいないし、ろくろく教えてもありゃしない、まったく練習不足だ! 恥をかかなきゃいいが、しくじらなきゃいいがな!」
そう言うと、主人はまた出て行ったが、すぐにこんどは、毛皮の外とうを着て、山高帽をかぶってひきかえしてきた。彼はねこに近づくと、前足をつかんで持ちあげ、外とうの胸の中へかくした。そのあいだもフョードル・チモフェーイチは、いたって平気なもので、目をあけようともしなかった。彼にとっては、横になっていようと、足をつかんで持ちあげられようと、ふとんの上に寝ころがっていようと、主人の外とうの胸にぬくぬくとおさまっていようと、まるで同じことだったらしい。……
「おばさん、行こう」と、主人が言った。
何もわからないけれど、おばさんはしっぽをふって、主人のうしろからついて行った。まもなくおばさんは、そり[#「そり」に傍点]の中で主人の足もとにすわって、主人が寒さと興奮に身をひきしめながら、つぶやくのを聞いていた。
「恥をかかなきゃいいが! しくじらなきゃいいがな!」
そり[#「そり」に傍点]は、スープ入れをさかさにしたような、大きな、妙な家のそばにとまった。このうちの長い車よせには、ガラスのとびらが三つあって、一ダースもある明るい燈火が、あかあかとともっていた。扉が音をたてて開くたびに、まるで口のように、車よせのそばをうろうろしていた人びとをのみこんだ。たいへんな人で、車よせへはたびたび馬もかけつけたが、犬は一匹も見あたらなかった。
主人はおばさんを両手でだきあげて、フョードル・チモフェーイチのいる外とうの胸の中へおしこんだ。そこは、暗くてむっと暖かかった。一瞬、緑色のぽうっとした火花が二つ、ぱっともえあがった。――それは、おばさんのつめたいごつごつした足におどろいたねこが、目をあけたのだ。おばさんは、彼の耳をなめてから、できるだけぐあいよくすわろうと思って、ごそごそ動いているうちに、つめたい足で、ねこをふみつけて、そのはずみに、思いがけなく、外とうの下から頭をだしてしまったが、すぐにおこったようになって、外とうの下へもぐりこんだ。――瞬間、怪物のいっぱいいる、だだっぴろい、うす暗い部屋を見たような気がしたのだ。部屋の両がわのしきりやさくの向こうから、馬の顔や、角《つの》のはえた顔や、耳の長い顔や、鼻のかわりにしっぽがはえ、口からむきだしの長い二本の骨がつき出ている、ふとった、ばかでかい顔など、いろいろなおそろしい顔が、こっちをのぞいていたのである。
ねこはおばさんの足の下で、にゃあにゃあしわがれ声をあげ始めたが、ちょうどそのとき、外とうの前があいて、主人が≪おりろ!≫と言ったので、フョードル・チモフェーイチとおばさんは、いっきに床の上にとびおりた。そこはもう、灰色の板壁にかこまれた小さな部屋の中だった。この部屋には、鏡をのせた小さなテーブルと、腰かけと、部屋のすみずみにぶらさげたぼろ[#「ぼろ」に傍点]をのぞいては、家具と名のつくものは何ひとつなく、ランプやろうそくのかわりに、壁に細い管を打ちつけて、そのさきに明るいおおぎ形の燈火をとりつけてあった。フョードル・チモフェーイチは、おばさんにふみつけられた自分の毛皮外とうをひとしきりなめまわしてから、腰かけの下へはいって横になった。主人はあいかわらず興奮して、しきりにもみ手をしながら、着がえにかかった。……彼は、いつも家で、あらラシャの毛布をかぶって寝るまえに、着がえをするときのように、下着一まいになってから、腰かけにすわって、鏡をのぞきながら妙なことをし始めた。まずさいしょに、髪のわけめと、角のような前髪が、二つついたかつらを頭にかぶり、それから顔じゅうまっ白にぬって、その白いおしろいの上に、まゆ毛や、口ひげや、赤いもようをかいた。彼のおめかしは、それだけではなかった。顔と首の細工がおわると、こんどはちんちくりんな、おかしな服を着始めた。おばさんは今までそんな服を、うちの中でも、通りでも、一度も見たことがなかった。まあ、おそろしく幅の広いズボンを想像していただけばいい。――よく町人の家で、窓かけや、家具のおおいに使われるような、大きな花もようのサラサでぬってあって、わきの下で、ボタンをかけるようになっている。そして一方の足が褐色で、もう一方がうす黄色なのだ。主人はこのズボンの中に、すっぽりはいると、大きなぎざぎざのえりと、背中に金の星のついたサラサのジャケツを着て、色とりどりの長靴下と緑色の靴をはいた。……
おばさんは、目がちらついて気がへんになってきた。たしかに、このまっ白い顔をしただぶだぶな服を着た人からは、主人のにおいがしたし、声も聞きなれた主人の声だったが、ときどきひょっと疑わしくなってきて、このまだらの人から逃げだして、ほえようとすることがあった。見なれない場所、おおぎ形のあかり、におい、主人の変装――こうしたことが、すべておばさんにわけのわからないおそろしさをいだかせ、きっとこれから、あの鼻のかわりにしっぽを持った、ふとった顔みたいな、おそろしいばけものに出あうにちがいない、という気がした。おまけに、壁の向こうのどこか遠くで、むかむかする音楽が鳴っていて、ときどきわけのわからないほえ声が聞こえた。ただ一つおばさんを安心させたのは――フョードル・チモフェーイチが平気でいることだった。彼は腰かけの下でゆうゆうとねむっていて、腰かけが動いても、目をあけようとはしなかった。
フロックを着て、白いチョッキをつけたひとりの男が、部屋をのぞいて言った。
「今、ミス・アラベラが出ています。つぎは――あなたですよ。」
主人は、何も答えなかった。彼はテーブルの下から小さな旅行カバンを取りだし、腰をおろして待ち始めた。くちびると両手から、彼がそわそわしているのがわかった。おばさんは、主人の息がふるえているのを聞いた。
「ミスター・ジョージ、どうぞ!」――扉の向こうでだれかが叫んだ。
主人は立ちあがって、三度、十字を切り、腰かけの下からねこを引きだして、カバンの中へ入れた。
「おばさん、おいで!」と、主人は小声で言った。
おばさんは、何もわからなかったが、主人の手のそばへ近よった。主人は、おばさんの頭にキッスをして、フョードル・チモフェーイチのいるカバンの中へ入れた。と同時に、あたりがまっ暗になった。……おばさんは、ねこをふみつけたり、カバンの壁をひっかいたりしたけれど、おそろしさのあまり声をたてることさえできなかった。カバンは、波の上をただようようにゆれて、ふるえた。……
「お待たせいたしました!」と、大声で主人が叫んだ。「お待たせいたしました!」
おばさんは、この叫び声がおわると、カバンが何かかたいものにどしんとぶつかって、ゆれがとまったのを感じた。大きな、太いほえ声が聞こえた。拍手が起こった。拍手のあいては、どうやらあの鼻のかわりに、しっぽのはえたみにくい顔のばけものらしく、カバンの小さな錠前がふるえたほど大きな声で、なおもほえたり笑ったりした。それに答えて、つきさすような、かん高い主人の笑い声がひびきわたった。――それは、今までうちでは一度も聞いたことのない笑い声だった。
「はあっ!」――主人は、ほえ声を消そうとりきみながら、叫んだ。「親愛なるみなさま! わたくしは、たった今、停車場からはせさんじました! じつは、このたびわたくしのおばあさんが息をひきとりまして、ここに遺産を残してくれたのであります! このカバンには、たいそう重いものがつまっております。――さてこそ金貨か……はあっ! 思いもかけぬ百万両か! では、ただ今、あけてごらんに入れます。……」
カバンの錠前が、かちと鳴った。明るい光が、おばさんの目を射た。おばさんは、カバンからとびだすと、わあわあいうほえ声にぼうっとなって、すばやく全速力で主人のまわりをかけまわりながら、きゃんきゃんほえだした。
「はあっ!」と、主人が叫んだ。「フョードル・チモフェーイチおじさん! いや、これは親愛なるおばさん! こりゃどうも、とんだところへ出てきたもんだ!」
主人はがばと砂の上にたおれるなり、ねことおばさんをつかまえて、だきしめようとした。おばさんは、主人にだきしめられているすきに、あたりのようすをちらりと見た。そしてあまりのすばらしさに、しばらくぼっとなったが、やがて主人の腕からぬけだすと、一つところをこまのようにくるくるまわりだした。新しい世界は、すばらしくりっぱで、明るい光にみちみちていた。――どっちを向いても床から天井まで、どこもかしこも、ただ目にうつるものは、顔、顔、顔、だった。
「おばさん、どうぞおかけください!」と、主人が叫んだ。
おばさんは、この言葉をおぼえていたので、いすの上へとびあがってすわった。そして主人の顔をじっと見た。彼の目は、いつものようにまじめでやさしかったが、顔――とりわけ口と歯とは、大げさな、すこしも動かない微笑で、ひんまがっていた。そのうえ主人は、自分から大声で笑ったり、とびはねたり、肩をすくめたりして、さもなん千という人びとの前にいるのが楽しくてたまらないというふりをしていた。おばさんは、主人がしんから楽しくてたまらないのだと思った。すると、ふいに、このなん千という人びとが、じっと自分を見つめているのをひしひしと感じて、きつねのような鼻面を高くあげ、さもうれしそうにほえ始めた。
「おばさん、あなたはすわってらっしゃい。」と、主人が言った。「おじさんとカマーリンスキイ([#割り注]ロシアのおどりの名[#割り注終わり])をおどりますからね。」
フョードル・チモフェーイチは、このつまらないことが始まるのを待っているあいだ、じっとつっ立って、何くわぬ顔であたりを見まわしていた。彼は、のろのろと、ぞんざいに、気むずかしい顔をしておどった。その身のこなしや、しっぽとひげのぐあいから、彼が、群衆も、明るい光も、主人も、自分自身さえも、軽蔑しきっているのがわかった。……自分のぶんをおどりおわると、彼はあくびをしてすわった。
「さあ、おばさん。」と、主人が言った。「まずふたりでうたって、それから踊りましょう。いいですか?」
主人はポケットから小さな笛を取りだして吹き始めた。おばさんは音楽を聞くと、たまらなくなって、いすの上をそわそわ動いてほえだした。四方八方から、ほえ声と拍手が起こった。主人はおじぎをし、しずまるのを待って吹きつづけた。……笛の音がひじょうに高くなったころ、どこか二階の見物席のほうで、だれかが、大声であっと叫んだ。
「とうちゃん!」と、子どもの声が叫んだ。「あれは、カシタンカじゃないか!」
「そうだ、カシタンカだ!」と、よっぱらった、がさがさの高い声があいづちをうった。「カシタンカだ! フェジューシカ、ありゃ、――ちぇっ、しょうのねえやろうめ、――カシタンカだぜ! フューイ!」
だれかが、二階席で口笛を吹いた。子どもとおとなの二つの声が、大声で呼んだ。
「カシタンカ! カシタンカ!」
おばさんは身ぶるいをして、声のしたほうを見た。ひげだらけの、よっぱらった笑い顔と、まるまるとふとった、ほっぺたの赤い、びっくりしたような顔とが、さっき明るい光が目を射たように、おばさんの目を射た。……おばさんははっと思いだした。そして、いすから下の砂の上に、もんどり打ってころげ落ちると、とび起きてうれしそうな叫びをあげながら、その二つの顔をめがけてかけだした。どっとわきあがるどよめきをつんざいて、口笛とするどい子どもの叫びがひびいた。
「カシタンカ! カシタンカ!」
おばさんは、さくをとびこえ、だれかの肩をとびこえてさじきへとびこんだ。が、その上の席へはいるためには、高い壁をとびこえなければならなかった。おばさんはとびあがった。だが、とびたりなかったために、壁をずり落ちた。そこでおばさんは、人の手から手へとびうつり、だれかれかまわず、手や顔をなめながら、上へ上へとはいあがって、とうとう二階席へはいりこんだ。……
半時間ほどたつと、カシタンカは、にかわ[#「にかわ」に傍点]やにす[#「にす」に傍点]のにおいのする人たちのうしろについて、通りを歩いていた。ルカー・アレクサンドルィチは、よろめきながらも、さすがに心得たもので、なるたけ掘割《ほりわり》からはなれようはなれようとしていた。
「おれは、どうせ生まれぞこないさ。……」と、彼はつぶやいた。「だがな、カシタンカ、おめえは――やっぱりたりねえなあ。人間とおめえのちがいは、まあ、大工とさしもの師のちがいみてえなものさ。」
ルカー・アレクサンドルィチと並んで、せがれのフェジューシカが父親の帽子をかぶって歩いていた。カシタンカはふたりの背中をじっとながめた。すると、自分がずっと昔からふたりのうしろを歩いているのだ、浮世のあら波も一刻たりとも自分をふたりからはなさなかったのだと、うれしくてたまらない気がするのだった。
カシタンカは、壁紙のよごれた部屋や、がちょうや、フョードル・チモフェーイチや、おいしいごちそうや、けいこや、サーカスのことを思い浮かべた。けれども、今となっては、そうしたことがみんな、長い、ごちゃごちゃな、重苦しい夢のような気がした。……
(Каштанка, 1887)
底本:「カシタンカ・ねむい 他七篇」岩波文庫、岩波書店
2008(平成20)年5月16日第1刷発行
2008(平成20)年6月25日第2刷発行
底本の親本:「チェーホフ全集 第七巻」中央公論社
1960(昭和35)年発行
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、学術記号の「≪」(非常に小さい、2-67)と「≫」(非常に大きい、2-68)に代えて入力しました。
入力:米田
校正:noriko saito
2010年7月6日作成
2012年2月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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