2019-06

チェーホフ

桜の園 ――喜劇 四幕―― アントン・チェーホフ ——神西清訳

人物 ラネーフスカヤ(リュボーフィ・アンドレーエヴナ)〔愛称リューバ〕 女地主 アーニャ その娘、十七歳 ワーリャ その養女、二十四歳 ガーエフ(レオニード・アンドレーエヴィチ)〔愛称リョーニャ〕 ラネーフスカヤの兄 ロパーヒン(エルモライ...
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妻 ЖЕНА アントン・チェーホフ Anton Chekhov ——神西清訳

一 私はこんな手紙を貰った。―― 『パーヴェル・アンドレーヴィチ様尊下。御住居に程遠からず、すなわちピョーストロヴォ村に、惨澹たる事実の発生を見つつありますにつき、御一報申し上げますことを私の義務と存ずる次第であります。同村の農民はこぞって...
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犬を連れた奥さん           DAMA S SOBACHKOI   アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

一 海岸通りに新しい顔が現われたという噂であった――犬を連れた奥さんが。ドミー       一 海岸通りに新しい顔が現われたという噂であった――犬を連れた奥さんが。ドミートリイ・ドミートリチ・グーロフは、*ヤールタに来てからもう二週間になり...
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決闘 ДУЭЛЬ       アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—— 神西清訳

ボギモヴォ村、一八九一年一 朝の八時といえば、士官や役人や避暑客連中が蒸暑かった前夜の汗を落しに海にひと浸《つか》りして、やがてお茶かコーヒーでも飲みに茶亭《パヴィリオン》へよる時刻である。イワ ン・アンドレーイチ・ラエーフスキイという二十...
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嫁入り支度 ПРИДАНОЕ アントン・チェーホフ AntonChekhov—— 神西清訳

わたしは生涯に、たくさんの家を見てきた。大きいのも小さいのも、石造のも木造のも、古いのも新しいのも。がそのなかで、ある家のことが特にわたしの記憶に焼きついている。  もっともそれは、家というより、まあ小屋に近い。ちっぽけで、平家《ひらや》建...
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可愛い女 DUSHECHKA   アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

オーレンカという、退職八等官プレミャンニコフの娘が、わが家の中庭へ下りる小さな段々に腰かけて、何やら考え込んでいた。暑い日で、うるさく蠅《はえ》がまつわりついて来るので、でももうじき夕方だと思うといかにもうれしかった。東の方からは黒い雨雲が...
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ワーニャ伯父さん     ДЯДЯ ВАНЯ ――田園生活の情景 四幕―― アントン・チェーホフ      Anton Chekhov ——神西清訳

人物 セレブリャコーフ(アレクサンドル・ヴラジーミロヴィチ) 退職の大学教授 エレーナ(アンドレーヴナ) その妻、二十七歳 ソーニャ(ソフィヤ・アレクサンドロヴナ) 先妻の娘 ヴォイニーツカヤ夫人(マリヤ・ワシーリエヴナ) 三等官の未亡人、...
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マリ・デル  MARI D’ELLE アントン・チェーホフ      Anton Chekhov—– 神西清訳

その晩は身体《からだ》があいていた。オペラの歌姫のナターリヤ・アンドレーエヴナ・ブローニナ(嫁入り先の姓で言えばニキーチナだが)は、全身を安息にうち任せて寝室に横になっていた。彼女は快い夢見ごこちのうちに、どこか遠い町にお祖母さんや伯母さん...
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ねむい СПАТЬ ХОЧЕТСЯ アントン・チェーホフ Anton Chekhov     —–神西清訳

夜ふけ。十三になる子守り娘のワーリカが、赤んぼの臥《ね》ている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。――   ねんねんよう おころりよ、   唄をうたってあげましょう。…… 聖像の前に、みどり色の燈明がともって...
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てがみ アントン・チエーホフ Anton Chehov             —–鈴木三重吉訳

ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母《つか》さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコ...