チェーホフ 六号室 アントン・チエホフ Anton Chekhov—–瀬沼夏葉訳 (一) 町立病院《ちょうりつびょういん》の庭《にわ》の内《うち》、牛蒡《ごぼう》、蕁草《いらぐさ》、野麻《のあさ》などの簇《むらが》り茂《しげ》ってる辺《あたり》に、小《ささ》やかなる別室《べっしつ》の一|棟《むね》がある。屋根《やね》のブ... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 富籤 ВЫИГРЫШНЫЙ БИЛЕТ アントン・チェーホフ Anton Chekhov—– 神西清訳 イワン・ドミートリッチは中流階級の人間で、家族と一緒に年に千二百ルーブルの収入で暮らして、自分の運命に大いに満足を感じている男であった。或る晩のこと夜食のあとで、彼は長椅子《ながいす》の上で新聞を読みはじめた。 「私、今日はうっかりして新聞... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 天才 ТАЛАНТ アントン・チェーホフ Anton Chekhov—— 神西清訳 避暑がてら、士官の後家さんの別荘に間借りをしている画家のエゴール・サヴィチは、いま自分の部屋の寝床に腰かけて、朝のメランコリイに耽っている最中である。庭はもうすっかり秋の眺めになっている。重苦しい、すこぶる拙く出来あがった層雲が、折角の大空... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 追放されて В ССЫЛКЕ アントン・チェーホフ Anton Chekhov ——神西清訳 『先生』と綽名《あだな》のついた老人のセミョーンと、誰も名を知らない若い韃靼《ダッタン》人が、川岸の焚火の傍に坐っていた。残る三人の渡船夫は小屋のなかにいる。セミョーンは六十ほどの老爺で、痩せて歯はもう一本もないが、肩幅が広くて一見まだ矍鑠... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 大ヴォローヂャと小ヴォローヂャ ВОЛОДЯ БОЛЬШОЙ И ВОЛОДЯ МАЛЕНЬКИЙ アントン・チェーホフ Anton Chekhov—— 神西清訳 「ね、馭者《ぎょしゃ》をやって見てもいいでしょう。私、馭者のとこへ行くわ!」とソフィヤ・リヴォヴナが声高《こわだか》に言った、「馭者さん、待ってよ。私、あんたの隣へ行くから。」 彼女が橇《そり》の中で起《た》ちあがると、夫のヴラヂーミル・... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 接吻 ПОЦЕЛУЙ アントン・チェーホフ Anton Chekhov ——神西清訳 五月二十日の晩の八時のこと、N予備砲兵旅団の六個中隊が全部、野営地へ赴く途中で、メステーチキという村に一泊すべく停止した。砲のまわりで世話をやくのに忙がしい将校があるかと思えば、馬を飛ばして協会の柵のほとりの広場へ集合して、宿舎係の説明に聴... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 少年たち МАЛЬЧИКИ アントン・チェーホフ Anton Chekhov—— 神西清訳 「ヴォローヂャが帰ってきた!」と誰かがおもてで叫んだ。 「ヴォローヂャちゃんがおつきになりましたよ!」と、食堂へかけこみながら、ナターリヤが叫んだ。「ああ、よかった!」 かわいいヴォローヂャの帰りを、今か今かと待っていたコロリョーフ家の人... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 小波瀾 ЖИТЕЙСКАЯ МЕЛОЧЬ アントン・チェーホフ Anton Chekhov—– 神西清訳 ニコライ・イーリイッチ・ベリヤーエフというのはペテルブルグの家作《かさく》持ちで、競馬気違いで、そして栄養のいいてらてらした顔の、年の頃三十二ぐらいの若紳士であった。その彼がある晩のこと、オリガ・イワーノヴナ・イルニナ夫人に逢《あ》いに行っ... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 女房ども БАБЫ チェーホフ Anton hekhov —–神西清訳 ライブージ村の教会の真向うに、石を土台にした鉄板葺きの二階家がある。階下《した》には、ヂューヂャというのが通り名の、この家の主人フィリップ・イ※[#濁点付き片仮名ワ、1-7-82]ーノフ・カーシンが家族と一緒に住んでいる。二階は、夏はひどく... 2019.06.06 チェーホフ
チェーホフ 子守つ子 アントン・チエーホフ Anton Chehov —–鈴木三重吉訳 夜、子守子のバルカは、きゝとれないくらゐの、ひくいこゑで、子守歌をうたひながら、赤ん坊のねてゐるゆり籠をゆすぶつてゐました。 「ねん/\よう。 ねん/\よう。」 神だなの前には、ランプが緑いろにともつてゐます。壁から壁へ、細いひ... 2019.06.06 チェーホフ