2019-06

マクラウド

最後の晩餐 フィオナ・マクラウド Fiona Macleod— 松村みね子訳

ふいと見た夢のように私は幾度もそれを思い出す。私はその思い出の来る心の青い谿《たに》そこを幾度となくのぞき見してみる、まばたきにも、虹のひかりにも、その思い出は消えてしまう。それが私の霊の中から来る翼ある栄光《ひかり》であるか、それとも、幼...
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剣のうた フィオナ・マクラウド Fiona Macleod— 松村みね子訳

ロックリンの海賊どもがヘブリッド島の鴉に餌じきを与えた時から三年目の、しろき六月とよばれる月に、夏の航海者たちは又もスカイの海峡を下って来た。  東風が山からあたらしく吹いて来た、明方と日の出ごろとのあいだにその風は向きを変えてクウフリンの...
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琴  フィオナ・マクラウド    Fiona Macleod —-松村みね子訳

コノール・マック・ネサの子コルマック、アイルランドの北の方ではコルマック・コンリナスという名で知られていたコルマックがアルトニヤ人の誓いのしるしの十人の人質の一人としてコネリイ・モルの許にあった時、彼はその力のため勇気のため又うつくしさのた...
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魚と蠅の祝日 フィオナ・マクラウド Fiona Macleod— 松村みね子訳

コラムは三日のあいだ断食した。口に入れるものとては、あけがたにひと口の割麦、ひるに一片の黒パン、日の入る頃に藻草のひと口といっぱいの泉の水、それだけであった。三日の夜、コラムの部屋にオランとキイルが来た。コラムは跪《ひざまず》いて一心に祈っ...
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漁師  フィオナ・マクラウド   Fiona Macleod— 松村みね子訳

シェーン婆さんは青々した草原の向うのほそい流れで馬鈴薯の皮むきに使う板を洗うとやがて自分の小舎に帰って来て泥炭の火の前に腰を下ろした。  婆さんはもうひどく年をとっていた。それに、真夏の日のいちにち、陽はよく当っていたけれど、山風は肌さむか...
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海豹  フィオナ・マクラウド   Fiona Macleod —松村みね子訳

神がコラムを永遠の宴に召される一年ほど前のことである、[#「ことである、」は底本では「ことである。」]ある夜、兄弟たちの中の最年少者「雀斑《そばかす》」とあだなされたポウルが彼のもとに来た。 「月が星のなかにあります、おおコラムよ、きょう神...
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かなしき女王 フィオナ・マクラウド Fiona Macleod— 松村みね子訳

ミストの島スケエの城の高い壁のかげに二人の男が縛られて倒れていた。  一人は「はげ」と綽名されたウルリック、一人は琴手コンラであった。多くの櫓船が海峡に沈んだ時、ゲエルもゴールも血に赤い波に沈んで、ただこの二人だけが生き残った。  長いあい...
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ウスナの家 THE HOUSE OF USNA フィオナ・マクラウド Fiona Macleod 松村みね子訳

はしがき コノール・マック・ネサは西歴の始めごろ、アルスタアの王であって、同時に愛蘭《アイルランド》諸王の盟主であった。ある歴史家の言に依れば、コノール王の治世はちょうどキリストが人間としてこの世に在った頃と同時だろうということである。  ...
ボードレール

道化とヰナス ボードレール—— 富永太郎訳

何といふすばらしい日だ! 広大な公園は、愛神《アムール》の支配の下にある若者のやうに、太陽のぎら/\した眼《まなこ》の下に悶絶してゐる。  なべての物にあまねき此の有頂天を示す物音とてはない。河の水さへ眠つたやうである。ここには人の世の祭と...
ボードレール

窓 ボードレール ——富永太郎訳

開いた窓の外からのぞき込む人は決して閉ざされた窓を眺める人ほど多くのものを見るものではない。蝋燭の火に照らされた窓にもまして深い、神秘的な、豊かな、陰鬱な、人の眼を奪ふやうなものがまたとあらうか。日光の下《もと》で人が見ることの出来るものは...